「バズるかどうか」ではなく、「どうすればバズるか」
18歳の女の子が、YouTube Shortsだけで6億回以上再生されていた。
しかも、1本あたりの平均再生回数は約1,000万回。
Jenny Hoyos。
ただ、彼女の面白いところは再生回数ではない。
もっと変なのは、その作り方だった。
JennyはMrBeastやRyan Trahanなど、成功しているクリエイターのShortsを大量に集めた。
見るだけではない。
動画の文字起こしまで取得して、数千本を分析した。
どんな言葉から始まっているのか。
何秒くらいなのか。
どこで話が変わるのか。
どのくらい簡単な言葉を使っているのか。
そして自分の動画を投稿した後も、視聴者がどの瞬間に離脱したのかをグラフで確認する。
彼女にとってYouTubeは、
「面白い動画を思いついて投稿する場所」
というより、
人間が何秒まで見続けるのかを実験する場所に近かった。
そして、その研究から彼女は一つの極端な考えにたどり着いた。
Shortsでは、
最初の1秒ですべてが決まる。
最初の1秒を失ったら、残りの30秒は存在しない
スマートフォンでShortsを開く。
面白くなければ、指を少し動かす。
次の動画が出てくる。
さらに動かす。
また次。
視聴者には、動画を見る義務がない。
だからJennyは、最初の1秒を異常なほど重要視している。
後にYouTube Shortsのプロダクト責任者Todd Shermanと対談した際、彼女は「本当に1秒しかないと思う」と説明している。
そのため、彼女が考える順番も少し変わっている。
普通なら、
「動画のアイデアを考える」
↓
「冒頭を考える」
となる。
Jennyの場合、強いフックを作れないアイデアは、そもそも動画にしない。
フックそのものがアイデアなのだ。
彼女は冒頭を大きく3つに分けて考えている。
まず、スクロールしている人が止まるような違和感を作る。
次に、この動画で何が起きるのか理解させる。
そして最後に何かが起きそうだと思わせる。
大切なのは、続きを説明しすぎないことだった。
視聴者の頭に、
「それでどうなるの?」
を残す。
その疑問が、次の数秒を見る理由になる。
100個のアイデアから、10個しか残さない
Jennyは動画を撮影する前にも、かなりの数を捨てている。
たとえば100個のアイデアがあったとする。
まず、
自分が作りたいか。
実際に撮影できるか。
最初の一瞬が強いか。
最後まで見る理由があるか。
もう一度見たくなるか。
こうした条件で50個ほどまで減らす。
さらに、
「この動画のどこがバズるのか?」
を考えて25個程度まで絞る。
最後は編集者など第三者の意見も入れながら、実際に制作する候補を10個ほどまで減らしていく。
つまりJennyにとって、動画制作とは、
100個作って100個投稿することではない。
100個考えて、90個を捨てることでもある。
ここでも感覚だけに頼らない。
過去に伸びた動画。
伸びなかった動画。
他人の動画。
自分の視聴者。
それらを比較する。
そして投稿する。
ただ、本当の分析はここから始まる。
たった1秒を削ったら、動画が1,800万回再生された
あるShortsを投稿したときのことだった。
いつものJennyなら早い段階で100万回ほど再生される。
ところが、その動画は5日ほど経っても約5万回しか再生されなかった。
なぜだろう。
JennyはYouTube Studioを開いた。
見るのは単純な平均視聴維持率だけではない。
視聴維持率のグラフそのものを見る。
すると、ある1秒で視聴者が大きく離れていることに気づいた。
そこで、その部分を削った。
動画全体の維持率は約83%から約88%へ改善した。
その後、その動画は最終的に約1,800万回まで再生されたと彼女は振り返っている。
30秒程度のShortsでは、1秒は動画全体の約3%を占める。
長いYouTube動画なら気にならない1秒でも、Shortsでは人が大量に消えることがある。
だから彼女は、
「なんとなくテンポが悪い」
とは考えない。
何秒目で人が消えたのかを見る。
ここが彼女の作り方をよく表している。
目標は「90%以上」
Jennyが重視する数字の一つが視聴維持率だ。
動画の長さによって変わるものの、彼女が一つの目安として挙げているのは90%以上。
自身のチームでは95%以上を狙うこともあるという。
さらに重要なのが、
「Viewed versus swiped away」。
Shortsが表示されたとき、そのまま見る人と、すぐ次へスワイプする人の割合だ。
Jennyのチャンネルでは、80〜85%程度が見る側に入ることがあると本人は説明している。
つまり勝負は、
クリックしてもらうことではない。
指を止めてもらうこと。
そして一度止まった人を、最後まで離さないこと。
さらに可能なら、もう一度見てもらう。
そのため、動画の最後にも工夫する。
最初に疑問を作る。
途中で結果を予想させる。
最後に答えを出す。
ただし、少しだけ予想を裏切る。
すると、
「どういうことだった?」
と、もう一度再生する人が出てくる。
Shortsは自動的にループする。
だから再視聴されれば、視聴維持率が100%を超えることさえある。
Jennyは「動画を見る」という人間の行動を、ここまで細かく分解していた。
人気動画ほど、言葉は簡単だった
数千本のShortsを分析していて、Jennyはもう一つ気づいた。
伸びている動画ほど、
言葉が簡単だった。
難しい単語を並べない。
長い説明をしない。
子どもでも理解できる。
Jenny自身は、5年生程度でも理解できる文章を意識し、読みやすさを測るツールまで使っていた。
MrBeastの動画についても、非常に低い学年でも理解できるほど簡単な言葉で作られていると分析している。
これは少し逆説的だ。
何億回も再生される動画だから、
ものすごく高度な脚本を書いているように思える。
実際には逆だった。
世界中の何百万人に理解してもらおうとすればするほど、
文章は簡単になる。
「理解するために考える時間」を減らす。
Shortsでは、その一瞬の迷いすらスワイプにつながるからだ。
そして「34秒」にたどり着いた
Jennyの人気動画には、34秒前後のものが多かった。
これも偶然ではない。
短すぎる動画には別の問題がある。
たとえば15秒の動画なら、1秒離脱されただけでも割合として大きい。
逆に長すぎれば、最後まで見てもらうのが難しくなる。
Jennyは自分のデータを見ながら、その間を探した。
そして自分のチャンネルでは30秒を少し超えたあたりが扱いやすいと考えるようになった。
もちろん、
「34秒にすればバズる」
という話ではない。
Jenny自身も、視聴者はクリエイターごとに違うと考えている。
重要なのは34という数字ではなく、
自分の動画を測って、自分の数字を見つけたことだった。
6億回再生しても、Shorts広告だけでは大金にならない
ここからがさらに面白い。
何億回も再生されれば、ものすごい金額が入ってくるように思える。
ところがShortsは、長尺YouTubeとは収益構造がかなり違う。
Jenny本人が公開した数字では、月間5,000万〜1億回ほどShortsが再生される時期でも、YouTubeから入る広告収益は、
月5,000〜1万ドル程度。
約75万〜150万円ほどだ。
もちろん十分大きい。
ただ、
「月1億回近く再生」
という数字から想像する金額としては意外に小さい。
もし同じ再生数を長尺動画で取れれば、広告収益は桁違いになる可能性がある。
Jenny自身も、その差を認識している。
だから彼女は、
「Shortsの広告収益だけを見る」
という考え方をしていない。
商品。
スポンサー。
コース。
長尺動画。
Shortsで集めた巨大な注意を、その先でどうビジネスに変えるか。
そこまで含めてクリエイターという仕事だと考えている。
ここに、現在のクリエイター経済の少し奇妙な構造が見える。
1億回見られることと、1億回分のお金を稼ぐことは、まったく別の能力なのだ。
Jennyが作っているのは「動画」なのか
Jennyの話を追っていくと、途中から何を作っている人なのか分からなくなってくる。
もちろん表面上はYouTube動画だ。
しかし実際にやっていることを見ると、
数千本の動画を分析する。
文字起こしを比較する。
100個のアイデアを考える。
90個を捨てる。
最初の1秒を設計する。
投稿する。
視聴維持率を見る。
人が離れた秒数を探す。
編集を変える。
もう一度試す。
これは映画監督というより、
小さな研究所に近い。
研究対象は人間の注意だ。
なぜ指が止まるのか。
なぜ続きを見てしまうのか。
なぜ最後まで見たのに、もう一度見るのか。
そして、その注意はどうすればお金に変わるのか。
昔ならテレビ局や広告会社のような巨大な組織が研究していたことを、一人の10代が自宅のパソコンからやれるようになった。
必要なのは放送局ではない。
スマートフォンとYouTube Studioがあればいい。
Jenny Hoyosが6億回再生を作った話で本当に変わっているのは、18歳という年齢でも、再生回数でもない。
人間の「次へスワイプする指」を止める技術そのものが、個人の仕事になったことなのかもしれない。